遺言書は書くべき?

日本は諸外国に比べて遺言書の利用率が低いといわれており、調査では約9%とのことです。

日本人は死について話すことを忌避する傾向があり、「うちは遺言書なんて」という方が多いように感じますが、結論から申しますと、ほとんどの方が遺言書を書くべきでしょう。

1.そもそも遺言書とは?

遺言書のタイトル

遺言書とは、自身の死後に財産の帰属を指定する文書であり、15歳から書くことができ、また認知症等である場合、遺言書が無効になる可能性があります。

書く際は、全文を自書する自筆証書遺言と公証役場(平塚市であれば平塚駅南口に平塚公証役場があります)に出向いて公証人に書いてもらう公正証書遺言があります。

また、日当や交通費を払って出張していただくこともできます。

そのため、よく「もっと病気が進行したら遺言書を考えます」という方がいらっしゃるのですが、元気なうちに書いておかれることをおすすめします。

2.遺言書を書くメリット

遺産の分割を指定できる

民法には法定相続分といい、遺産の分割割合について目安が設定されています。

父母を同じくする子であれば法定相続分は同じなので例えば配偶者がなく、子が二人というケースで財産が2000万円相当あれば長男に1000万円相当、二男にも1000万円相当ということになりますが、遺言書を書くことで長男に1400万円相当の自宅不動産を、二男に600万円の預貯金や有価証券というような指定をすることができます。

遺言書が無い場合、長男と二男で遺産の分割について話し合い、「遺産分割協議書」を作成し、不動産の名義変更や預貯金の解約をすることになります。

法定相続人以外にも遺産を分けることができる

前記した法定相続分により、相続人となりえるのは配偶者、直系卑属(子や孫)、直系尊属(親や祖父母)、兄弟姉妹であり、それ以外の方に遺産が渡ることは基本的に無いのですが、遺言書を書くことで法定相続人以外にも遺産を分けることができます。

一例としては、老後の面倒を見てくれた長男の妻、恩のある友人、慈善団体に寄付するといったことも可能です。

将来の相続手続きが短縮される

遺言書が無い場合、相続人全員で遺産の分割について協議し、遺産分割協議書を作成することになり、これが非常に困難なケースがあります。

兄弟仲が悪い、家を出たきり連絡のつかない子がいる、被相続人(亡くなった方)に離婚歴があり前の配偶者との間に子がいるなどの場合はご自身で遺産分割協議書を作成するのが困難なため、弁護士、司法書士、行政書士等の専門家に依頼することとなります。

遺言書を書くのにも費用が掛かりますが、遺言書があれば相続人が費用を支払って遺産分割協議書を作成する必要が無いので結果として相続手続きの費用が抑えられることになります。

また、相続手続きとして戸籍等の収集をすることになりますが、この戸籍も遺言書があれば収集する範囲が大幅に縮小されますので相続人の負担を減らすことができます。

ご自身の想いを家族に遺せる

家族の写真

遺言書というとテレビやドラマを見て争いの元になるようなイメージをお持ちの方もいらっしゃると思いますが、これは誤解でしょう。

遺言には付言事項というものを載せることができます。

これは遺言の効力(○○は誰に相続させるというような内容)とは関係なく、自由に書くことができる手紙のようなものです。

特に偏った遺産分割を指定する場合、付言事項になぜこの分割を指定したのかという想いを書くことで相続人の争いを避けられる可能性が上がります。

また、家族への最後のメッセージを遺すことができる方は多くないのでご家族にとっても励みになるでしょう。

3.こんな方は特に遺言書を書くべき!

子がいない方や離婚歴があり、前の配偶者との間に子がいる

子がいる場合、相続人は配偶者と子ということになりますので、家族の中で遺産分割が成立しますが、子がいない場合、配偶者と直系尊属、直系尊属がいない場合は配偶者と兄弟姉妹ということになりますが、この遺産分割がなかなか大変です。

夫が亡くなったというケースであれば、遺された妻は義両親、義両親がいなければ亡夫の兄弟姉妹と共同で遺産分割協議書を作成することになりますが、兄弟姉妹ですでに亡くなった方がいる場合、その子(甥や姪)まで相続人の範囲が広がることになります。

こうなるとなかなか連絡がつかない相続人がいたり、話し合いが進まなかったりして時間がかかりますが、遺産を多く残した方は相続税が課税される可能性があり、亡くなってから10か月以内に相続税の申告が必要となります。

まだ遺産分割が成立していないので遺産をもらえていないのに納税しなければならないという事態になりかねません。

4.こんな方はあまり遺言書を書かなくてもよい

配偶者なし、子が一人

例えば夫に先立たれた妻で子が一人、亡夫に前妻の子がいることもないことが確認できているというケースであれば、妻が亡くなった際の相続人は子一人だけとなります。

こういうケースであれば相続手続きも簡素ですので遺言書を書くメリットがそこまでありません。

とは言っても一人遺された子にとってはわざわざ自分のために遺言書を書いてくれたというのは励みになるでしょうから、遺言書を遺すのはもちろん良いことだと思います。

5.遺留分に注意!

遺言書で自由に遺産の分割を指定できると書きましたが、一方で遺留分という制度もあります。

これは配偶者、直系卑属、直系尊属は遺言等で遺産を相続させないことになっていても、法定相続分の1/2を請求することが認められているものです。

例として遺産が2000万円相当、相続人として子が二人というケースで、遺産は全て長男に相続させる、二男には一切相続させない旨の遺言書を遺したとします。

法定相続分では長男1/2の1000万円、二男1/2の1000万円となりますが、二男には遺留分として1/2のさらに1/2、つまり1/4の500万円相当の金銭を長男に請求することができることになります。

こうなると遺言書を遺すことで争いの元になる可能性がありますので、この遺留分も考慮して遺言書を書く必要があります。

6.まとめ

遺言書というと身構えがちですが、これまで書いてきたようにメリットがたくさんありますのでぜひ多くの方に利用していただければと思います。

また、近年民法改正により法務局で自筆証書遺言の保管制度というものも始まりました。

費用をかけずに手書きで書く自筆証書遺言ですが、せっかく書いても家族に発見されなかったり、隠匿、改ざんされるリスクのあるものでしたが、これを補うことで大変利用しやすいものになりました。

昔は大家族で暮らし、親戚も近くに住んでいるという形態が多かったですが、現代では核家族化、また都会で就職する等で親族もみな離れた地域に住んでいるということが多く、今後も相続手続きが大変になるケースが増えると思われますので、遺された方のために遺言書をご検討されてみてはいかがでしょうか。

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